2019年6月11日から9月23日にかけて、上野にある国立西洋美術館にて「松方コレクション展」が開催されている。
この展覧会は、明治時代の首相として有名な松方正義の三男、松方幸次郎という日本人のコレクションを集めたものだ。彼は、日本の貧しい画学生が日本よりも文化の進んだ欧米の優れた西洋の美術品に触れられないということに危機感を持ち、自らの経営する造船業で得た富を使ってロンドンやパリで西洋の美術品を大量に買い集めることに奔走した。収集した作品を展示した美術館を創設して日本人が西洋美術に触れられる機会を作りたいと考えたのだ。
その後、震災や金融恐慌、戦争により惜しくも散り散りになってしまった彼の美術品コレクションのうち残ったものの収蔵と展示のため、戦後、国立西洋美術館が設立された。3000点近くあった松方コレクションは、大変幅広いジャンルの西洋美術品が集まっているという。そこには、日本に西洋美術を広めたい、という松方幸次郎氏の願いが込められているのだ。
松方コレクションは、どのような困難をたどってきたのだろうか。困難の発端は、1927年の昭和金融恐慌だった。恐慌により、松方氏の造船所は経営破綻に陥り、コレクションは流転することになった。コレクションのうち、日本に到着していた作品群は売り立てられ、ヨーロッパに残されていた作品も一部はロンドンの倉庫火災の被害を受け、またそれだけでなく、第二次世界大戦末期のパリでフランス政府に接収されたという。
そして戦後、フランスから日本へ寄贈返還するという形で、375点が日本にもどり、それらを保存・展示する機関として、1959年国立西洋美術館が誕生した。ようやく松方コレクションは、国立西洋美術館で守られる運びとなったのである。しかし、今もなおこの困難の中で散逸してしまった作品を探す作業は続いている。
このような、松方コレクションと国立西洋美術館の関係があることから、国立西洋美術館では、開館60周年を記念して、松方コレクション展が開催されている。私たちはこのコレクション展に実際に足を運んだが、非常に多種多様な絵画や彫刻などがあり、また時代ごとに絵の変遷をたどることができる内容となっていた。
さらにこのコレクション展の計画を進めていく中で発見された、散逸した作品の一つであるモネの≪睡蓮≫の大装飾画にかかわる作品の展示もあった。痛んでしまったことによる修復不能な部分も含まれる絵画を見ていると、作品たちの困難や、美術品収集に奔走した松方氏の努力がひしひしと伝わってくるようだった。
コンピューターを使用して作品を製作することや、既成のものを置くこともアートになり、インターネットなどを通じて作品を無料で鑑賞することができる現代において、国立西洋美術館に足を運んで鑑賞することにどんな意義があるのだろうか。
今回取材に応じてくださった国立西洋美術館主任研究員の陳岡めぐみさんは「国立西洋美術館は西洋美術を日本で根付かせることに役割を果たしている。作品の造形的な要素以外にも、作品が持つ歴史、情報、ストーリーなどの2次的な要素がある。国立西洋美術館はそれらを地道に研究し、作品解説や音声ガイドなどによって観賞者に伝えていく。また美術館では静かに一人で鑑賞することがルールのようになっているが、誰かと一緒に観ながらコミュニケーションを取ることでさらに絵画鑑賞が楽しくなると考えている。」と語る。
国立西洋美術館には、松方幸次郎が未来の日本人の為に収集した美術作品のストーリーが日々研究され、公開されている。我々はそれを鑑賞し、西洋美術の様々な側面を学び、楽しむことで、松方幸次郎がコレクションに込めた願いを達成することが出来るのではないだろうか。