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Children’s Shelter for the “children” in the gap between the law

法の隙間の「子どもたち」に避難所を

 昨年、千葉県で10歳の女児が両親からの虐待によりこの世を去った事件が日本を震撼させた。近年、幼い子どもたちの痛ましい死を報じるニュースを見聞きしたことのある方も多いのではなかろうか。実際に平成30年度の児童虐待対応件数は、全国で年間10万件以上にも上っている。しかし、虐待の被害に遭っているのは小さな子どもだけではない。比較的年齢の高い10代後半の青少年も、人知れず家庭内での虐待に苦しんでいるという現実があるのだ。

例えば横浜市。市が公開している昨年度の16歳以上の児童虐待対応件数では、年間合計件数10,998件のうち、16歳以上に関する市全体での相談件数は623件。相談件数の1割にも満たないが、確実に助けをもとめている10代の青少年が存在することを表している。

 このような家庭に安心して過ごす居場所のない青少年を一時的に受け入れ、将来設計をするための機会を提供する「子どもシェルター(緊急一時避難所)」の存在をご存じだろうか。そこで今回は神奈川県を拠点に活動をされている認定特定非営利活動法人子どもセンターてんぽ(以下、てんぽ)理事長の影山秀人氏、「子どもシェルターてんぽ(以下、シェルター)」のホーム長を務める篠島里佳氏、ボランティアの方に青少年をとりまく実情を伺った。

子どもセンターてんぽ 設立の歩み

 影山氏はこれまで弁護士として少年事件や児童虐待に関わる事件を担当されており、その経験から虐待に苦しむ青少年の問題に危機感を抱いたという。児童相談所の一時保護所は幼い子どもたちの保護で手いっぱいとなり、年齢が高く、虐待による身体的なダメージが幼児より比較的深刻に受け取られにくい青少年の保護まで十分な対応ができないという現実があった。

加えて18歳以上であれば児童相談所の保護対象から外れてしまうため、同所の介入はできないが、未成年であり大人の保護を必要とする若者が確実に存在する。そうした助けをもとめるサインが見逃されれば、(虐待をはじめとした)健全な成長に好ましくない環境におかれた子どもたちは、安心安全な居場所を失い、家にも帰れなくなってしまう。結果として夜の町などに居場所をもとめ、非行に手を染める、もしくは不適切な人と交わる機会を持ってしまうのだ。

 そのような、心身ともによりどころを必要としている子どもたちは「自分など生きていても意味がない」と将来に対して悲観的な思いを抱いている場合も多い。そんな彼らに一人一人がかけがえのない存在であることを理解してほしい、と同氏は願っている。こうして法律の隙間におかれた青少年に寄り添うべく、2007年4月に「子どもシェルターてんぽ」を開所した。2013年に「子どもシェルターてんぽ」は行政より児童自立生活援助事業として認定され法的な立場を得た。現在、事業の一部は公的資金によって運営されている。

一休みをしながら、次のステップへ

 シェルターに身を寄せることで、入所者はひとまず身の安全を確保することができ、のちに社会に羽ばたくため、心身ともに英気を養うことができる。それでは、入所者はシェルターでの滞在の間にどのようなサポートを受けるのだろうか。

 まずシェルターには子どもたちが安心して過ごせるよう、スタッフやボランティアスタッフが常駐している。原則2か月という一時的な居場所ではあるが、スタッフとボランティアスタッフは、周囲の大人が子どもたちの味方であることを理解してもらえるよう心がけている。そのため、見守る姿勢を大切にしつつ、入所者とともに食事をとり、会話を楽しむことはもちろんの事、時には子どもたちとともにお菓子作りをすることもあるという。このように様々な特技や社会経験を持つボランティアスタッフとのかかわりは、入所者の体験の幅を広げる機会となっている。

 一方で入所者の過去やつらい経験には、本人から話し出さない限り、あまり深い介入は避けているという。子どもにとって周囲の大人の言葉は予想以上の重みをもってしまうこともあるためだ。

 そしてシェルターから次の歩みへと踏み出すために重要な役割を担うのが“子ども担当弁護士”(以下、子担)の存在だ。基本的にシェルターでは入所者1人に対し2人の子担が専属となり支援をする。シェルターのスタッフは、入所者に必要な支援を十分に提供すべく、支援にかかわる方を定期的に招き、カンファレンスを開く。

同会議には児童相談所などの行政の職員が参加する場合もあり、入所者も同席する。問題を抱えた本人の意思を尊重しつつ、子どもを支える大人たちが互いの役割を分担し、入所者の自立に向けた歩みに寄り添うのだ。また行政窓口へ支援を求める際には、子どものみで相談に訪れると望むような対応を受けることができない場合も多々ある。そこでスタッフや子担が子どもとともに窓口へと向かい、行政からの支援を要請するケースもある。

 また子担の主要な役割の一つとして、入所者の保護者への対応があげられる。シェルターに避難をした子どもは突然に帰宅をしなくなるため、当然ながら不安に感じる保護者も多い。そこで子担が保護者と連絡を取り、子どもが安全な場所に保護されていることを伝え、何か子どもに連絡があれば子担へ伝えるよう促している。しかし、シェルターは子どもが一時避難をする場所であるため、その所在地を明かすことはしていない。以前、子担の保護者への対応に際し、下記のような事例もあった。ある子どもは高校に通学していたが、その親御さんがわが子を退学させようと学校側に迫ったのだ。その際、子担が学校側と話し合い、親御さんのわからない形でその子どもが学びを続けられるよう、転校の手続きをとったというケースも過去にはあった。

このほかにも、大学受験を目指す子どもの望みをかなえるべく、子担が親御さんと交渉を重ね、受験費用を支払ってもらえるよう説得するなどの支援もしている。上記のように、子担が親と子どもの懸け橋となるだけでなく、子どもの将来を左右する重大な局面でも親御さんとのコミュニケーションを図っている。

さらには子どもたちの入所中の生活面まできめ細やかな支援をする点がてんぽのシェルターの子担の特徴でもある。入所者の中には虐待などの経験から精神的な傷を負っているケースも多く、精神科をはじめとした医療機関への受診に子担が付き添うこともある。また入所中に気分転換を図るため遊園地などのレクリエーションに連れ出すなど、その子のために可能なあらゆる支援を講じている。

 専門である法律関係の支援を超え、生活面全般にかかわるサポートを行う子担の活動内容に、「それは弁護士の仕事範囲か」という声が聞かれることもあるという。しかし、影山氏はこう語る。「子どもにとって必要なのは裁判をやるばかりではない」と。心身ともに安心できる場所を求めてやってくる入所者にとって、進路設計だけでなく生活全般の支えとなる子担の存在がどれほど大きなものかと思い知らされる。実際に自尊感情が低い傾向にある子どもたちにとって、「自分のために弁護士がつき、将来へ踏み出すために共に進んでいるんだ」という感覚を持つこと自体が彼らを勇気づけている。

シェルターから自立の道へ

 上記のように、シェルターでの滞在の間にきめ細やかな支援を受けることができた場合でも、シェルターを退所後、すぐに社会復帰をすることは難しい。多くの場合は自立援助ホーム(児童福祉法第6条の3第1項に規定されている)という、様々な事情で保護者の援助を得ることのできない、義務教育終了から20歳未満の子どもが対象の施設に入居をする。そこで、てんぽは2010年6月に「みずきの家」という自立援助ホームを設立した。入所者はそこで共同生活をする間に仕事を見つけ、自分でお金を稼ぐことを学ぶ。そして自立援助ホームに月々3万円の利用料を納め、貯金もしてゆく。およそ一年間「みずきの家」にて生活をすると、70万から100万円ほど貯金をすることが可能になり、それを元手にアパートを借りるなどをして自立へと歩んでゆく。入所中に学校へ通うなどの就学支援もしている。独り立ちしたのちも実家は全く援助の手を差し伸べないケースが圧倒的なため、「みずきの家」が実家代わりとなっており、「みずきの家」の近所に住み続ける方も多い。また「みずきの家」退所後は入所中に働いていた仕事を継続する、もしくは職を転々とする場合もあり、特に後者の場合には「みずきの家」のスタッフによる継続した就労支援が求められる。就職という選択肢の他には、大学などへ通い始める方もおり、それぞれが着実に未来を切り開くのだ。

抱え込む必要のない、声を上げるべき問題へ

 前述したとおり、幼い子どもの虐待事件は表面化している一方で、こうした10代後半の青少年の問題への対応や対策は広まりが不十分であり、行政からも十分に目を向けられているとは言い切れない。例えば児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)や、児童相談所の設置を規定する児童福祉法は、その保護対象となる「児童」の定義を満18歳に満たない者と規定している。さらに、厚生労働省の児童虐待防止対策を紹介するサイトや、その中の一つの大きな取り組みである「児童相談所虐待対応ダイヤル」を紹介するサイトでは、「赤ちゃん」や「子育て」といった言葉や画像が多用されており、青少年が相談しにくい環境となっている。この現状に対して、「18歳はもう大人なんだから自分でなんとか切り抜けられるでしょう」と考える方もいるかもしれない。もしくは虐待を受けた本人がそうあるべきだと思ってしまうこともあるだろう。だが一人で抱え込んでしまっても問題が望むような方向に改善しないことは容易に想像できる。そこで、てんぽでは2008年10月より助けを周りに求められない子どもや若者を対象とした「居場所のない子どもの電話相談」事業を開始した。相談件数は子ども本人からだけでなく周囲の人や学校、役所などの機関からの問い合わせも含めて年々増加し、2018年度には年間310件に上った。この数字は虐待に苦しみ、助けを求めている青少年の存在を如実に示している。

 電話相談窓口では緊急の避難場所として「子どもシェルターてんぽ」を紹介することはもちろんのこと、てんぽ以外のシェルターやその他の機関に関する情報も相談者に合わせて提供している。しかしながら、居場所を求める子どもたちに対し、シェルターの数が十分にあるとは言い切れない。ホーム長の篠島氏は、子どもシェルターが未だ存在しない地域を含め、全国から連絡が寄せられると話す。理事長を務める影山氏も現段階では圧倒的にシェルター数が足りていないのではないかと指摘する。

 そこでてんぽはシェルター事業の普及活動にも尽力している。子どもシェルターを運営する全国の法人が結成した「子どもシェルター全国ネットワーク会議」の代表を昨年(2019年)までてんぽ理事長の影山氏が務め、厚生労働省に団体としての要望を伝えるなど精力的な活動を展開している。また同会議を契機に弁護士や福祉関係者の連携が進み、シェルター事業が進展しつつある地域も存在する。現在は、全都道府県に少なくとも1か所の子どもシェルター設置を目指し、未設置県の弁護士などに働きかけるとともに、シェルター設立の手引書を作成し全国に呼び掛けを続けている。

 影山氏は「シェルターのような場所がある、居場所を必要としている若者がいる、と発信することで、行政や福祉、医療機関に子どもシェルターの存在を知ってもらいたい。小さな子どもだけではなく10代の家庭の問題や、成人年齢を超えた若年世代の生きづらさ、自立の難しさの問題提起が必要」と語る。てんぽは電話相談だけでなく、県内の高等学校や警察、関係機関などにチラシやパンフレットを配布し、昨年は子どもシェルターを舞台としたドラマの脚本にも取材を受け携わった。そこには本当に支援の必要な人はもちろんのこと、さらに多くの人にシェルターの存在を周知してゆきたいという思いがある。その実現には公的機関や援助団体が子どもを取り巻く環境やシェルターの役割を発信することが欠かせないものであり、てんぽの取り組みは大きな役割を担っている。

子どもを大切にできる社会をめざして

 様々な要因で社会に溶け込めず、虐待などに苦しむ子どもや青少年が存在する一方で、現在の日本社会では歯止めの利かない少子高齢化や人口減少が叫ばれて久しい。今後日本がこれらの問題を乗り越え、より良い社会を築いてゆくためにはどのような努力が必要とされているのだろうか。国全体の課題について影山氏にご意見を伺った。同氏は(北欧諸国のように、幸せに暮らせれば経済水準が世界有数レベルでなくても構わない、という国としての同意がとれないのであれば、)世界有数の裕福な経済状態を維持していきたいのであれば、必然的に外国からの労働者を受け入れることはもちろん、子どもを大切にする国にならなくてはならない。貧困にあえぐ世帯のような、支援の必要な場所にしっかりとお金が届くような手立てを早急に打ち立てることが不可欠だと指摘する。事実、これが達成されなければ、あらゆる社会問題を改善できないまま、社会のセイフティーネットから零れ落ちてしまう人が出てきてしまうことは想像に難くない。また、ホーム長の篠島氏とボランティアスタッフの方は「虐待をしてしまう親のケアや、地域の協力のような、社会のなかで子育てがしやすい環境を整えることも重要」と語る。虐待をしてしまう親も、何かしらの問題を抱えているのだ。

 「法や制度の隙間」とも言える、青少年の虐待問題に取り組み、彼らを社会へと送り出すてんぽの方々の想いは尽きない。だが、これらの青少年に関わる問題は本来社会全体で共有すべき身近なものであろう。子どもに関わる問題は日本の将来を左右するものでもある。社会が経済や産業の発展に突き進み、省みることのできていない代償や背を向けている存在はないだろうか。

 子どもを大切にする社会へと歩んでゆけるのか、日本は今まさに岐路に立たされている。

執筆:大塚愛恵 金多謙 小泉玲雄 信太優里奈 中尾彩


※参照データ

平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>

横浜市記者発表資料 令和元年度 横浜市における児童虐待の対応状況

Comment (1)
  1. On October 10, 2019, the Arkansas Department of Education Board of Directors unanimously ratified the Arkansas Charter Authorizing Panel approval of Hope Academy of Northwest Arkansas! Hope Academy, the first trauma-informed school in Arkansas, opened its doors on the Northwest Arkansas Children s Shelter campus in August 2020. The charter school is an expansion of the mission of the Shelter and fill an educational gap that currently exists in Northwest Arkansas. Children who have experienced trauma, many of whom have the same profile as our current residents, will now be able to find specialized, small classes taught by trauma-trained teachers who strive to create a safe environment for the children to learn, cope, manage and thrive. Our teachers and staff are specially trained to provide an educational space for learners with unique needs. Our team-based approach fosters student success by understanding and meeting physiological, social and emotional needs of students. He has not only received the care, love and vital services he so desperately needed, but he has thrived. Samuel has made great strides in school. He is working on life skills such as changing the oil in the Shelter vans, assisting with set-up for Shelter events and helping reconcile petty cash in the business office. He’s even opened up a bank account and visited different work environments to discuss career options for his future.

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