前編では、(web版リンクを貼る)慶應義塾協生環境推進室が実施している「女性のからだ支援〜Breezeプロジェクト〜」について、その具体的内容を担当の黒田さん、中峯さん、鵜澤さんのお三方に伺った。
後編では、女性が抱える健康問題が、個人のみに留めておくものではなく社会全体で向き合うべき話題へと移行している現状について、引き続きお三方にお話を伺った。
Breezeプロジェクトの取り組み 公式ホームページより
女性のからだの悩みが、社会で向き合うべき話題になるまで
自身のからだや生理といった話題は個人的なものであるがゆえに恥ずかしさが伴い、他者と気軽に共有することは避けられてきた。「父と生理について話すことは、ある種タブーだった」と黒田さんも語る。それでも近年、女性のからだや生理の問題が、社会で大きく議論されつつある。女性特有の健康の悩みが、個人だけではなく、社会全体で向き合うべき問題へと移行している背景にはどのような要因があるのだろうか。
鵜沢さんはSNS上での、児童・生徒の生理の貧困についての議論を要因の一つとして挙げる。小中学生が家庭の経済状況によって生理用品を準備できていない現状に対して、生理用品を学校の保健室に常備して困窮の中にいる児童・生徒たちに配付すべきだという議論が盛り上がりを見せていた。議論は大学生や社会人の「生理の貧困」へと広がり、それに付随して女性特有のからだの悩みも取り上げられるようになったのではないかと語る。また、コロナ禍において、貧困問題が顕著になり、生理の貧困とも結びついたのではないかという。2021年にNHKで放送された特集ドラマ「雨の日」では、月経前症候群(PMS)と生理との向き合いという観点からストーリーが展開するが、こうしたドラマが放送されるようになったのも、女性のからだ・生理の問題が公で語られ始めている昨今の状況を反映しているようだと語る。
中峯さんは、コロナ禍での家庭の経済状況の悪化が大きな要因となっていると考える。新型コロナウィルスの影響で困窮に追い込まれた塾生は数多くいる。塾生の生活を守るために、慶應義塾大学学生部によって「食の支援」が2021年度春学期から実施された。アルバイト先での収入減少や、親元を離れて生活を送る学生を対象に、各キャンパスの学生生協食堂、大学生協購買部で食料品を購入するための食券3000円分が配付されるという取り組みだ。「Breezeプロジェクト」での生理用品無料配付は、「食の支援」と同じ枠組みで開始されたものだという。コロナウィルスによって経済的に苦しい状況が余儀なくされているのに連動して、女性のからだ・健康問題にも光が当てられるようになったのではないだろうかということだ。
黒田さんは近年の世界的動向という視点から、分析を示す。2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、「ジェンダー平等」や「貧困の撲滅」などが達成すべき項目として掲げられている。日本社会では、未だに企業における女性の役員の割合が低かったり、女性の出世がなかなか進んでいなかったりする。その一方で、女性の社会での活躍が謳われてもいる。女性が社会で自らの力を発揮し、キャリアを築く際に大きな不安要素となるのは、生理・妊娠・出産・更年期といったからだの問題にある。女性のからだをトータルにケアする必要性が訴えられているなかで、生理の問題も個人だけではなく、社会のみんなで向き合うべき話題とみなされるようになったのではないだろうか、と語った。
また、近年、社会の中でいわゆる「マイノリティ」とされてきた人たちが、いわゆる「マジョリティ」の人たちと同等の配慮を求めて、声をあげている。たとえばLGBTの人たちは、自らについて自らが語り、理解を進める運動を行なっている。これまで表には出されにくく、ある種タブー視されてきたことを、そのメンバーを中心に公の事柄として語ろうとする社会的傾向が強まってきているという。その流れを受け入れようとする動きも、未だ完全ではないにせよ見られるため、女性のからだ・生理の話題も同様に、公の事柄として話題になるための環境の整備が少しずつ進んでいるとの見解だ。
執筆: マーロー瑳良 中尾彩