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The Importance of Diversity Seen from The Coronavirus

コロナウイルスから見出す多様性

「新型コロナウイルス」。この言葉を知らない者はもはやどこにもいないだろう。中国武漢市を発端に今もなお世界各国に大きな影響を及ぼしている。日本も例外ではない。何年も前から多くの人が心待ちにしていた東京オリンピック・パラリンピックが延期された。4月に発出された緊急事態宣言は解除されたが、町を見てみると真夏の暑い時期にもかかわらず未だ大勢の人がマスクを着用している。この影響の多大さは計り知れない。今回私たちは、その中でも特にこの未曾有の事態により生活を脅かされた人々の救済活動にあたる、一般社団法人「つくろい東京ファンド」の小林美穂子氏に話を伺った。

小林美穂子氏

つくろい東京ファンドとは

 つくろい東京ファンドは2014年6月、「市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう!」を合言葉に、東京都内で生活困窮者の支援活動をおこなってきた人々が集結し設立された。行政のセーフティネット構築政策に欠けているのは「ハウジングファースト」という意識。そこでつくろい東京ファンドはこれまで中野区、新宿区、墨田区、豊島区の4つの区で計25部屋を確保し、ホームレス状態にある人々にシェルターを提供してきた。住まいを提供するだけでなく、彼らがアパートに移り住んでからも社会的に孤立しないよう、ホームレス経験者が働くカフェ「カフェ潮の路」の運営も行っている。

新型コロナウイルスとつくろい東京ファンド

 この新型コロナウイルスの影響でネットカフェを含む多くの施設が閉鎖された。つくろい東京ファンドは4月11日の政府によるネットカフェ等への休業要請に先立ち、4月7日に助けを求める人へのメールフォームを開設。それと同時に、代表理事を務める稲葉剛氏がアパートの借り上げを始めた。相談は後を絶たず170件にも及び、その多くはネットカフェを生活の拠点としていた人たちだという。彼らは携帯電話を持ってはいたが通話料を支払う余裕がなく、かろうじてWi-fi環境下でのみメールでのやり取りができた。相談者との待ち合わせやその後の様々な手続きに対し、つくろい東京ファンドのスタッフだけでなく多くの人々が協力してくれた。政治家の方までも協力の手を差し伸べてくれたのだ。相談者が何よりも困窮していたのは生活資金。まず支援金を渡し、ホテルを手配し、さらには各自の希望に沿って東京都によって設置された不安定就労者の自立支援相談センターであるTOKYOチャレンジネットに連絡したり、生活保護申請につなげたりもした。中にはアパートの入居の支援を行った例も多くあったという。

日本の社会保障制度の欠陥

 また小林氏は日本の社会保障制度、中でも生活保護制度の欠陥に大きな危機感を示している。その実態は私たちの知る「生活に困っている人を支援する素敵な制度」とは大きくかけ離れているのだ。そのため、他のOECD加盟国と比較して生活保護を受給すべき人の中で実際に生活保護を受けられている割合は2010年時点で約20%と低水準に留まっている。いわゆる「水際作戦」と呼ばれる手口、窓口で圧力をかけることで生活保護の受給を諦めさせたり、生活保護受給を開始しても無料低額宿泊所という施設に入居させられたりするからだ。無料低額宿泊所の中には1つの部屋に20人も押し込められるようなところもある。入浴は週に2~3回、食事もまともに出してはくれない。生活保護から住居費を天引きして自立を妨げている現状もある。大半はそんな劣悪な施設となり果ててしまっているので路上生活に逆戻りする人が多いようだ。

交流の場 「カフェ潮の路」

 小林氏は、日本は文化的にも生活保護を受けることが恥であるという意識があり、それらを受給しなければならない人が受給できない状況を作り出してしまっていると指摘する。路上生活経験者の仕事づくりと居場所づくり、そして地域の人々と交流する場として「カフェ潮の路」は開設された。生活保護問題や福祉に関心のある人、通りがかりで何気なくカフェに入ってきた人、近所の人などと一緒に語り合いながらコーヒーを飲むことで対話が促され、他者理解に繋がるという。

 現在はコロナウイルスの影響で営業ができない状態に陥っている。カフェの利用者たちは1日も早い再開を望んでいるが、新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まらない今、再開の見通しは立っていないそうだ。

今後の社会

 自己責任論が蔓延し、生活保護を受ける人は怠惰であるといった言説がまかり通り、政治の問題は個人の問題へとすり替えられる。この社会のなかで私たちは多様性、他者理解の問題に向き合い続けなければならない。社会はいろいろな人によって支えられてようやく成り立っている。それはあなたも例外ではなくそのような関係性に気づくことから真に政治、社会を志向する行動が始まるだろう。

 誰しも生活を脅かされる可能性があることを新型コロナウイルスは思いがけない形で私たちに示してくれた。この事態を決して悲劇だけで終わらせぬよう、これを機に私たちは多様性をもっと尊重していけるよう変わるべきではないだろうか。

執筆: 佐藤 綾香、宮内 昂平、信太 優里奈

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