近年日本食が無形文化遺産に登録されたことで日本酒や日本産ワインが海外で注目されている。日本でワインといえば山梨と言っても過言ではなく、国内外問わず非常に人気が高い。
その国産ワインで有名な山梨県甲州市にある勝沼という土地は元々、養蚕や米産業をメインに営んでいた。だが時代とともにその継続が難しくなり、1920年代頃から葡萄栽培が始まった。
勝沼の葡萄栽培は国によって推奨されたものである。この土地の特徴である、扇状地の水捌けや日当たりのよさ、1日の寒暖差の大きさ、風通りなどといったさまざまな自然条件が揃って勝沼の葡萄栽培は成り立つ。
私たちが今回訪問した麻屋葡萄酒には、大正10年に現在の代表の祖父が建てた長い歴史を持つワインセラーが地下にあり、そこで製造したワインを保存している。
周りに地下水が流れているので、夏は涼しく、冬は暖かく年間を通じて温度にあまり変化がない。キャパシティは6万ボトル。Vintageが8割、Nouveauが2割収容されている。最も古いVintageのワインは40年前のものがある。
山梨のオリジナルワインといえば「甲州ワイン」。甲州葡萄という品種は山梨の環境に合うように独自で開発されたものである。甲州葡萄はほかのものと比べて味が薄いため、しっかりと絞る方法で甲州ワインを作っている。
私たちは今回、麻屋葡萄酒が位置する勝沼で生産された勝沼甲州葡萄を使った、麻屋葡萄酒のオリジナルワイン「勝沼甲州シュールリー」を試飲することができた。勝沼甲州葡萄はその生産年度によって味が微妙に変わる傾向であるため、飲み比べをするのがおすすめ。
自身のテイストによってその評価もそれぞれだが、2016年産の「勝沼甲州シュールリー」が最も好評を得ているそうだ。ワインの甘み、渋み、酸味が適切に調和した辛口ワインである。
筆者はちょうど良いほのかな酸味が特徴的で飲みやすいと感じた。しかし、2017年産のほうが美味しいと評価するクルーもおり、飲み比べて感想を話し合うのも山梨ワイナリーツアーの醍醐味なのではないかと考えた。
麻屋葡萄酒のトレードマークは「勝沼甲州シュールリー」だけではない。「生き生き山梨」という甘口果実酒も人気だ。「生き生き山梨」はワインが苦手な人でも楽しめる果実酒であるため、人々に多く愛されているという。
平成25年に和食が世界遺産に登録されて以来、世界中で和食への人気が広まるにつれて、和食に合わせる日本独自のお酒も注目されるようになってきた。
国産ワインの代名詞ともいえる山梨産のワインは味がそれほど強くないため、幅広い食べ合わせをすることができる。食べ物に合わせるとその食材の味を引き立てる役割を果たすことができる点において、食材の味をそのまま生かした和食との相性も抜群だ。
山梨ではワインはポピュラーなお酒であるため、塩辛い漬物などに合わせて日常的にも愛されているそうだ。そして日本の調味料といえば定番の味噌もワインと同じく発酵食品であることから、その相性が良いという。また、山梨ではイタリアンなどで山梨ワインを添わせることもよくあるそうだ。
そんな中、国内のワイナリーは全国で約300社、山梨だけでも約80社も存在し、国産ワイン市場の競争は激化してきた。
麻屋葡萄酒は多くの観光客をもてなし、またワイナリー見学のできるワインツーリズムも高く評価されている。麻屋葡萄酒の人気のひとつであるワイナリーショップは、12~13年目を迎えるという。平日はもちろん土日もフルオープンし、ワイナリーツアーも製造にかかわるスタッフが対応する。実際に我々が訪問した際も、丁寧に案内や説明をしていただいた。
ほかには昭和初期に使っていたワイン製造のための機械の展示やテイスティング、数あるコンクールでの受賞記録も魅力的だ。ワインづくりは地道な作業であり肉体労働だが、コンクールの受賞は自らの立ち位置を実感できるとても嬉しいことだという。
また、地域に対してはお酒を通したチャリティーイベント、地域の子供たちとの交流イベント、勝沼のワイナリーが所属する勝沼ワイン協会によるワイン映画祭などを行い、文化の発信点としてのワイナリーとなっている。
一方、近年日本では山梨ブランドの葡萄を守るために『GI山梨(geographical Identification )』という品質を保証する制度を作り、積極的に山梨の葡萄の価値を高めている。また、こうしたブランド化を行うことで消費者に認知してもらうという狙いもあるという。
麻屋葡萄酒を運営している雨宮さんが今一番重視していることの一つに山梨ワインの認証制度の確立がある。山梨で造られたワインというブランドを守るとともに消費者への知名度を上げるのがねらいだ。
現に認証制度はいくつか存在している。まず、前述したGI山梨。地理的保護(Geographical Identification)の略で、その名のとおり山梨県産ワインを保護する制度だ。5年ほど前に日本で初めてワインの地理的表示が認められたのがこの「山梨」である。山梨県産のぶどうを使って醸造、貯蔵、容器詰めされたワインのラベルにはこのブランド名が刻まれる。
酒類の地理的表示は国税庁が管理しているため、国によって品質が保証されていて消費者にとっても安心できるうれしい制度だ。雨宮さんは、「生産者の自己満足だけでなく、消費者にも知ってもらうための取り組み」だと語る。
もう一つの制度は、甲州市原産地呼称ワイン認証制度だ。甲州市で栽培されたぶどうを使ったワインを認証するシステムで、こちらは甲州市ワインのブランドを保護するためのものだ。
このように、国、県、市を挙げて山梨のワインを守ろうとする取り組みが行われている。これに対し雨宮さんは、「認証制度はあるがワインの格付けは難しい」という。これには、受け継がれてきた伝統ある土地をより格上のワインのためには手放せないという日本人特有の考え方が起因している。しかし、格付けしたほうが消費者により知ってもらえるのでは、というのが雨宮さんの本音だ。
山梨ワインのためのベストは何なのか。これからも雨宮さんは麻屋葡萄酒で活動を続けていく。
執筆:金多謙 佐藤綾香 信太優里奈 土屋冠侍 宮内昂平
英語編集:後藤玲依
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