今回紹介するデイヴィッド・プルーカさん(以下 David さん)は、慶應義塾大学で英語とドイツ語を教えている。我々は彼が自宅で作っているというクラフトビールに興味を持ち、取材を行った。
彼は、アメリカの中でもホップが有名なオレゴン州のポートランド出身。11 年前に景色が綺麗な山梨県に土地を買った。家を作りたかったという彼の現在の住まいは、一階はネイチャーハウス、二階はツリーハウスと独特なものになっている。
現在は慶應義塾大学だけでなく、拓殖大学でも教授をしているため、週の半分は大学勤務をしている。拓殖大学では環境を守り地域を活性化する「グリーンビジネス」を教えており、その一環として、木で机や梁を作ったり、学生を招いて田植えを行ったりしているという。また、作業場の屋 根に雨水を貯めるタンクを作り、水の節約もしている。そしてグリーンビジネスの傍らで、「帯那ホップヤード」を営みホップの栽培からビールの醸造までを行っている。
David さんが生まれ育ったオレゴン州は、ワシントン州と並んでホップの生産で有名である。特にポートランドは、Beervana(ビアヴァーナ:美味しいビールが豊富な場所。ビール天国。) と呼ばれるほど、人々がビールを愛している街だ。身近にホップやビールがある環境 で育った彼は、やはりクラフトビールが大好きである。そして好きが高じて、自分でクラフトビールを作りたいと思うようになったという。そのためには、まず原料となるホップが欠かせない。そこで山梨の地で『Obina Hop Yard』を開くに至ったのだ。
ホップ作りは地面に苗を植えるところから始まる。帯那で育てられているホップは、彼の出身地であるアメリカのオレゴン州やワシントン州由来のものが多い。ホップは順調に育っても1年目のものはビールづくりには向かないため、3~4年は待たなければならない。 こうして十分に育ったものは切り分けられて乾燥の作業に移る。
ホップ作りで気を付けていることは、毎朝4時には起きてホップの管理をすること。それに加え日中の作業や恒常的に続く畑づくりや排水管の整備にも苦労しているとDavid さんは話す。しかし、そんな彼をサポートする人々は多い。彼のフィアンセや近所の方たち、さらには彼が講師を務める大学の学生も手伝いに来てくれるのだ。
帯那の土地柄、タヌキやモグラなどによる被害にも悩まされている。予防策としてホップ畑はネットで囲まれており、また風でホップが飛ばされたりすることのないよう、土にカバーを被せたりもする。化学農薬を使わない栽培が彼なりのこだわりだ。
クラフトビールは麦芽、ホップを主な原料として作られる。彼が特に力を入れているのはホップだ。ホップには一般的にビールに苦味や香りをつける、色を澄んだものにする、泡もちを良くするといった役割がある。彼が育てるホップは、India Pale Ale、通称 IPA と呼ばれる、かつてインドからイギリスに伝わったものだ。苦味があり大きく、強度もあり世界でも有名なホップであるという。
David さんの生まれ故郷でのクラフトビール市場は限りなく拡大している。葡萄のみを原材料とするワインなどと違い、ビールのアレンジは無限大だ。例えばココナッツが入ったビールが存在するように、何でも調合することができる点がビールの魅力だという。
また、彼には日本中のビールメーカーとコラボレーションするという夢がある。この夢のために、不得意な数学や化学の代わりに、土壌や日光、水位、PH のレベル、アルコール度数、化学薬品等について勉強するとともに、専門家との話し合いも行う。
彼は、より若い人に自分の事業に興味を持ってもらいたい、生きていくスキルを身に着けてほしいと語った。彼は帯那がホップで有名な町のひとつとなり、クラフトビールによって活性化し、またその取り組みが後世にも受け継がれていくことを願っている。
執筆:糸繰雄亮 佐藤綾香 信太優里奈 曽根瞳子
英語編集:Daniel Skriptchenko