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The Fight for Media Literacy, One Episode at a Time

ドラマを通したメディアリテラシーとの戦い ~フェイクニュースを考える~

20世紀末から急速に普及したソーシャルメディアは、情報の伝達をかつてないほどスムーズにしてくれた。マスメディアの第一報を待たずとも、インターネット上に拡散される一般市民の投稿から、何が起こっているのかをすぐに知ることが可能になったのだ。

だが、このような情報の身近さは、一つの弊害をもたらした。それがフェイクニュースである。 

例えば2016年のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱といった重大な局面において、フェイクニュースが果たした役割は非常に大きなものだった。人々は偽の情報を信じ込み、それに基づいて判断を下した。選挙後に「あれはフェイクニュースだった」と知ったところでどうにもできず、現在の混乱につながっている。 

では、フェイクニュースを見抜き、偽の情報に惑わされずに判断を下すためにはどうしたらよいのだろうか。私達は、その答えは「メディア・リテラシー」であると考え、メディア・リテラシーを身につけるための取り組みについて調べた。そして、NHKの『メディアタイムズ』という番組に出会った。 

『メディアタイムズ』は、子供たちにメディア・リテラシーを身につけさせることを目的とした教育番組である。この番組は、架空の映像制作会社「メディアタイムズ」のスタッフがメディアの現場に飛び込み、制作者の狙いを調べるというドラマの形をとっている。放送時間は10分、全20回であり、ネットニュース・動画クリエイター・ファクトチェック・広告代理店など、さまざまなメディア活動を取り上げている。 

番組の流れとしては、メディアの仕事を紹介した後、最後に二項対立的な問いを用意し、 それを視聴者に投げかけ議論を促す形をとっている。 

この番組自体は、NHK for Schoolという学校教育の現場で利用される番組群の一つである。本番組ディレクターの三井氏も実際に学校に足を運び、また日本教育工学会で研究発表するなど積極的な教育との関わりをもつ。 

番組制作に当たっては、まず教育現場でいかに多くの人の視聴を促すかに重点を置いており、特集するメディア・主題歌・キャスティング等は子供や先生が興味を持ちやすいように工夫されている。 

またこの番組は、教育現場で利用できるようにHPで全話が無料で視聴可能である。HPには、メディアの専門家の大学教授や中高の先生が作成した指導案を含んだ先生用のページがある。これも無料で利用することが可能で、先生にはこの案を参考にして、授業設計を行うことが期待されている。 

通常NHK for Schoolの番組は学習指導要領に沿った形で制作されるが、『メディアタイムズ』はそうではない。なぜなら、肝心の「メディア・リテラシー」という文言がが学習指導要領に載っていないからだ。ではなぜこの番組を制作することとなったのか。三井氏は番組 の制作背景を三点に分けて説明する。 

まず一つ目は、メディア環境の変化である。我々は従来の雑誌、新聞、テレビ、ラジオから情報を得ていたが、それに加えてネットニュース、SNS、YouTubeなどのツールからも情報を得るようになった。すなわちメディアが多様化したのである。

以前のメディア・リテラシー教育番組は、新規のツールであるSNS、動画クリエイター(Youtuber)等を取り上げてこなかったため、それらにも注目する番組の必要性を感じたのであった。 

二つ目に、学習指導要領の変化がある。新しく学習指導要領に「アクティブラーニング」という考え方が導入されたことから、自分で物事を考える、主体的かつ対話的な学びが求められるようになった。 

これまでもメディア・リテラシーに関する番組をNHKは作ってきたが、それらの番組は情報を発信する側(テレビ局、新聞社など)に焦点を絞り、ドキュメンタリーとして作られてきた。 

これに対し、メディアタイムズではアクティブラーニングを取り入れるために、二項対立の議論をドラマ仕立てで番組構成に組み込んでいる。これは小・中学生が議論をしやすくするための工夫である。議論の経験が少ない小・中学生にとって、二項対立の形を取ることは、論点がクリアで自分の立場を明確にしやすいため、議論が進みやすくなるというメリットがある。このような狙いの下、他の番組との差別化が図られている。 

三つ目に、制作陣のマインドの変化が挙げられる。 

三井氏は入局後、水戸放送局に赴任した。そして一年もしない内に、東日本大震災が起こった。岩手・宮城・福島の東北三県の被害が連日大きく報道される一方、水戸放送局のある茨城県の被害はほとんど報じられることはなかった。地震だけでなく、地理的に津波の被害もあったにも関わらず、である。 

こうした報道の背景には、「より大きな被害を優先的に伝える」というメディアの特性があった。そして茨城の被害が広く認知されない状況の中、二つの問題が起こった。 

まず一つは、嘘のツイートが出回るようになったことだ。物資の足りない厳しい状況を誇張してツイートした発信者と、物資を集める手助けがしたいという思いでリツイートした受け手の構図は、結果として一部の避難所に物資が集中し、本来必要なところに届かないという状況を生み出してしまった。 

二つ目は、メディアは何かを隠しているのではないか、という疑念が住民の間に生まれたことだ。先述の通り茨城の被害や茨城への原発事故の影響が大きく報道されなかったために、住民はメディア全般への不信感を募らせたのである。 

ニュースの放送時間の制約、また内容の優先順位がある中で、なんとか茨城の被害も伝えたいとメディア側ももどかしく思っていた。その一方で、受け手である住民は報道がないため圧倒的な情報不足に陥り、自分たちの被害は忘れられているのかもしれない、という不安を感じていた。 

以上の二つの経験を通して、制作陣は情報の送り手と受け手の間にコミュニケーション不全があることを痛感した。実際に、震災の起きた2011年以降、国内では各メディアへの信頼度が落ちている。この状況は、人々にとって議論のベースとなる情報の信頼度が落ちてしまったことで、議論が大きな役割を果たす民主主義の根幹を揺るがす事態となっている、ということを意味する。 

三井氏をはじめとする制作陣はこの状況を打破するために、メディアで情報を発信する・ 受け取るとはどういうことか、二者に共通する「文法」としてメディア・リテラシーが必要であると考え、『メディアタイムズ』制作に至ったのだ。 

最後に、三井氏は『メディアタイムズ』の大きな狙いについて、以下のように話す。 

番組が示した二項対立に基づく議論を通して、子供は他者との意見の違いに気づく。どうして相手は違う意見を持っているのか、それを知るために相互に自分の考えを表現し意見交換をする。この相互を理解しようとする過程がコミュニケーション不全の解消につながるのではないか、と。

メディア・リテラシーに答えはない。しかし、メディアを介した情報の送り手と受け手の 関係はどうあるべきか、それを考え続けることこそが、この真偽ないまぜの社会に生きる私たちにとって大切なのである。

執筆:風巻勇介 曽根瞳子 宮内昂平

英語編集:Jacob Wagnon

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